ごあいさつ
東北マリンサイエンス拠点形成事業(海洋生態系の調査研究)
Tohoku Ecosystem-Associated Marine Sciences (TEAMS)
代表機関代表研究者 木島明博(東北大学)
副代表機関代表研究者 木暮一啓(東京大学)
副代表機関代表研究者 藤倉克則(海洋研究開発機構)
企画広報担当 北里 洋(東京海洋大学)
あの太平洋東北沖地震から5年半が経過しようとしています。晴れた日に海岸に打ち寄せる波の音を聞いていると、この海が20mも黒く盛り上がって街を襲い、全てを押し流したことが信じられない思いです。しかし地震と津波の爪痕はまだあちこちに残っています。かつての砂浜や干潟が消え、海岸線は大きく姿を変えています。目を陸に転ずると、茶色い土があちこちにうず高く積まれ、新しい道路ができてダンプカーが走り回っています。しかし、かつて人々が集い、語り合い、生活を共にしていた街並みとざわめきが戻るのにはまだ時間がかかりそうです。
あの地震と津波は海にどんな影響を与えたのでしょうか。海岸の姿が大きく変わった地域では藻場や海底の様子はどうなったのでしょうか。さらに、それは水の動きや生き物にどんな影響を与えたのでしょうか。そもそもあの豊かな海はすぐにでも戻ってくるのでしょうか。そんな疑問に科学的な調査で答えるため、2012年1月から文部科学省の支援により東北マリンサイエンス拠点形成事業が始まりました。東北大学を代表機関としてさらに東京大学大気海洋研究所、海洋研究開発機構が副代表機関となり、200名以上の研究者が結集し、豊かな漁業の再生を目指して調査、研究を行ってきました。
ある研究者は海にセンサーを降ろして海流や潮汐を測り、ある研究者は研究船を使って海底の様子や海水中の化学成分などを調べてきました。また、プランクトンや底生生物、あるいは岩礁に生きる海藻や貝などがどのように変動してきたのか、あるいはどんな魚たちがどこにどのように分布しているのかを調べる研究者もいます。4年半あまりの研究を通じて、地震や津波が及ぼした影響が分かってきました。また、これまで分からなかった東北の海の特性も明らかになってきました。そうして得られた科学的知見を漁師や地元のみなさんに伝える努力もしてきました。
しかし、地震と津波の影響は生物や場に応じて大きく変わるようです。さらには陸上の土木工事などが海に新たな負荷を与えている可能性も見えてきました。海の生態系の動きは複雑で長期に渡るため、まだまだ調査、研究を続ける必要があります。これは、人類史上まれに見る震災を経験した我々日本の研究者に与えられた責務ではないでしょうか。そして、我々の事業を通じて得られる科学的成果は本事業の研究者に帰するものではなく、社会あるいは国際的な場で共有すべきものではないでしょうか。引き続き、多くの方々のご理解とご協力を頂ければ幸いです。
平成28年7月1日